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黒四ダムから本流を下る 5 [黒部川釣行記]



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黒四ダム寄りの本流


S氏宅を訪ねたのは禁漁の後で確か10月上旬だった。場所は、
3.000m級の北アルプスが間近に見える信州の「大町」である。

訪ねた時、S氏は留守だったが奥さんが応対してくれた。
不意の訪問だし失礼かと思い手短に訪ねた訳けをお話して帰ろう
としたが、直ぐ戻るからと親切にも私を引き留めてくれた。近くの
山に松茸を採りに行っていて間もなく帰るからと言う事だった。

「北アルプスは見えるし、広々してて良い所ですね。」「埼玉から
来たんですよ」「畑をやったり、悠々自適で羨ましい」などと、
どうでも良いことを奥さんと話している内に、暫くして奥さんが言
う通りに年配の男が腰に魚篭を携え地下足袋姿で戻って来た。

初対面であったが一見して、その身のこなしと雰囲気から、本にあ
った写真を頭の中でダブらせる必要なく、彼がS氏と判った。

よく見ると腰の篭は魚篭ではなく少し大きめの山菜篭だった。松茸
狩りに、入れ物は魚篭でも良いようなものだがイメージの影響は強
烈である。

S氏が元職漁師という概念による錯覚、私は「釣り」で充満し
ていて瞬間的に腰の篭が「魚篭」に見えたのだった。

奥さんは何かボソボソと阿吽の呼吸で話をしていた。「其処に居る
男がこれこれこういう訳で訪ねてきた。」と言っているらしい。
そして、トーンを上げて、「どうだった?」と言った。

松茸の収穫を確認しているのだ。よく聞こえなかったがS氏は
「ムニャムニャ」。  松茸は採れなかったようだ。



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